2022年観劇13本目:A Strange Loop

5/28/2022 Sat 8pm
A Strange Loop
Lyceum Theatre
Orch AA102 $39 Lottery

ロトに当たって見てきました。
なかなか当たらなかったんですよね。

さすがにこの最前列の席は舞台が高すぎてだいぶ見切れたー!
しかも一幕ものなので、途中でストレッチなどができず、
見終わったあとはなかなか首が痛かったです(笑)

と、席のことはおいておいて。

とても創造的で野心的な作品で、
主人公とは立場が違っても、エンパシーを働かせるよう仕向けられました。
怒りと悲しみの面が強く、ちょっと苦しい内容ではあったけど、
かきむしられるほどの苦しさにはならないよう、
笑いやユーモアも散りばめられいます。
黒人文化背景(特に人名)がわからなかったり、
スラングも多くて、笑いについていけないところもあり、
見終わった後に台本を読んでみましたが、
読んでその意味がわかったところでも、「知らない」ことが結構ありました。

主役はThe Lion KingでUsherをやっているUsher。
黒人で、太っていて、ゲイで、頭が良く、自己イメージの低い男性。
UsherのThoughtsとして6人が出てきます。出演者はそれだけ。

作品はそんなUsherの思考のループの一部を見る、という構成になっていて、
何かが解決するわけでもなく、ループから抜け出すこともありません。
Usher以外の役もそのThoughtsが演じていて、
日常と思考の境界が曖昧になっています。

Usherは大学を卒業したあと、自分の思考をそのまま作品にしたいと
制作活動を進めていますがうまくいっていません。
Thoughtsのひとりが言う、truthを書くことを恐れているんだったら、
多分それは書く価値がないことだし、
そもそもtruthに沿って生きていないんだったら、
多分それは生きる価値がないということだ、
という厳しいけど真っ当な指摘とどう対峙するか、というのが、
この作品のキモになっていました。

Usherは今日こそ自分のShowを、Lifeをよくするぞ、と歌うのですが、
お金があるわけでもなく、ゲイで黒人で、という社会的地位からくる問題があり、
家族との分かり合えない壁があり、それらが絡み合ってSelf-esteemが低く、
truthを生きることの難しさが描かれていました。

truthを生きるのって、自分を持っているとか、雑音を気にしなければいいとか、
そんな簡単なことではなくて、周りに「自分」が認めてもらえないと成り立たない。
「ありのままでいい」っていうのは、マジョリティだから享受できるもの。
Usherは自分が何者であり、何がしたいか、とわかっているし、
嫌なものは嫌だと譲らない頑固なところもあるけど、
周りがそれを認めてくれない。特に家族が認めてくれない。

個人の話と社会的構造の話が何重にもループしている内容で、
一度見て、簡単に「XXだったね」と結論づけるのが難しい作品でした。
でもこういう作品をエンタメに昇華させるんだから、やっぱりすごい。
前半はまだこうなんだろうな、私はこう思うな、と私情を挟む余地があるんだけど、
後半はとにかく圧倒されて私情を挟む余裕がなく、涙も出なかった。

物語の前半はセットも簡素で、ほとんど見た目は変わりません。
だからまだ考える余裕があったのかな。
でも後半の物語がぐーっと動くところはセットも衣装も派手になって、
メッセージのシャワーが強烈になるので息をする余裕もなくなり、
目が離せないようになっていました。

この日主役のUsher役をU/SのKyle Ramar Freemanが演じていたのですが、
この作品を演じる体力と気力とが凄まじい。
歌もうまいんですよ。すーっと音が出る。
本家のJaquel Spiveyがトニー賞にノミネートされていますが、
Kyleでもノミネートされたと思うし受賞していたと思います。

そしてThoughtsも個性的。
Usherも出ずっぱりだけど、Thoughtsは衣装替えもあるし、
彼らもほとんど休む暇がないんじゃないでしょうか。
とにかく7人が魂を削って演じている感じがして、
こちらも真剣に受け止めないといけない、という作品でした。

音楽は同じフレーズを繰り返すところが多く聞きやすい。
カーストワードは多いし、アグレッシブに感じるところもありますが、
音楽はところどころ他の作品をオマージュしたような旋律も多く聞きやすかったです。
何か口ずさみたくなる、というタイプの音楽ではないので、
耳に残るわけではないですが、音に乗って歌詞がスーッと入ってきます。

CBSか何かの特集で、これまで決してミュージカルの主役になることのなかった
キャラクターが主役のミュージカルだ、と言っていましたが、
こういうミュージカルを作ろうと考えるクリエイターがいるのがすごいですよね。
ただただ楽しい、というミュージカルもいいけど、
こういう胸を掴まれる感じの作品もあるのが、
Broadwayのすごいところだなと改めて感じました。


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