2023年観劇3本目: Pacific Overtures

3/23/2023 Thu 8pm
Pacific Overtures
Signature Theatre
The Max, Dress Circle DC 409 $40+fee

初めてPacific Overturesを見ました。
日本でも見たことがなかったし、
5年ぐらい前のオフのはパスしちゃったしで、
ストーリーはなんとなく知っていましたが、曲は完全に初めて聴くものでした。

SignatureのThe Maxは四方を客席が囲む形。
このスペースで他の作品を何度か見たことあります。

真ん中が円になっていて、お盆で回るタイプでした。
お盆って、時々手持ち無沙汰になっちゃって、
舞台に動きをつけるための道具として使われることが多いけど、
今回はセリフや歌詞にあるとおりfloating countryな様子が出ていました。
舞台の上には太鼓。そして下にはカーテン。
座った位置的にカーテンの奥が見えないのが残念で、
たまてが死んでいるシーンが見えなかったです。

出演はアジア系の俳優が10名、うち2名が女性。
キャスト一覧を見た時に、日系の名前がなくて、
うーん、一人ぐらい日系をキャスティングできなかったのかなと初めは思ったのですが、
見てすぐにその気持ちがなくなりました。
一つはアジア系のみでストーリーが進んでいくことへの嬉しさと、
(アジア系がキャスティングされるってまだ少ないですよね。
おまけみたいにアンサンブルに一人入ることはあっても、全員がアジア系って貴重)
もう一つは日本の名詞の発音が丁寧だったし、文化が尊重されているように感じたから。

ちょっと着物の襟が詰まってるな、とか、
正座をして礼をする作法が、作法というより許しを乞おているみたいだな、とか、
身分が上の人に対して「は」と返事するところが、「はっ!」となっていて、
それじゃ気合い入れるみたいだよ、とか、
扇子をそこまで使わなくてもいいんじゃない?とか、
ちょいちょい突っ込もうと思えばつっこめるのですが、
でも重箱の隅をわざわざつつくようなことをしなくていい、そんな作品でした。

物語はReciterが、日本の歴史の本と、大きめのお椀を持って登場し、
舞台の真ん中に作られていた蓋を開け、
その下にあるガラスの床の上にお椀の中に入っていた砂を敷き詰めるところからはじまります。
これが日本の陸。国土。砂。
そして蓋を閉めてストーリーが動き出します。

Act 1のハイライトはなんといってもChrysanthemum Tea。
これ、オフでカットしちゃったんですね。
ただ、日曜に行われた脚本のJohn Weidmanと演出のEthan Heardの対談を
Youtubeで見ていたのですが、割と早い段階で、
日本の威厳と、西洋のコメディーが出合うことになるから、
このシーンをカットしたいという意見はわかる、とJohnが言っていました。

でもこれ、何も決められず伸ばし伸ばしにする日本と、
ちゃんとしろ、ちゃんとやれ、とお尻を叩くアメリカ
(と言っていいのかな。この役を演じる将軍の母)の対比が出ていたし、
Welcome to Kanagawaでも、右往左往する幕府(政府)と、
状況を受け止めて、腹を決めて、
稼ぐ機会にしてやれという強い町の人の対比が出ていたし、
そういう意味ではどっちも必要な感じがしました。

ちなみにこの将軍の母がめちゃくちゃコメディに長けた人で、
もうこの人の動き、表情、声色に大爆笑。
John Weidman曰く、47年間の中で見たChrysanthemum Teaで一番おもしろかったそう。
ランスルーを見たJohn Weidmanが、おもしろくするか、じゃなかったらカットする、
という助言をしたそうで、将軍の母役の俳優がこの演じ方を提案したそうです。

Welcome to Kanagawaも同じく将軍の母役の人が出ていたり、
割とコメディの強い演出になっていたのですが、
堅い、柔軟性のない幕府とは違って、町人はこういう状況も笑いにできる、
楽しめる余裕がある、そんな風に見えました。

アメリカ人をはじめ、バーバリアン役は全員お面をつけて、
当時日本人が見ていた、西洋人のイメージを出していました。
バーバリアンの偉そうにしているけど、なんか抜けている感じ、
これもわざとの演出なんですかね。
そうそう。香山と万次郎が小舟で黒船に近づくところ、
万次郎のアメリカ人には大声で叫べば、あっちはもっと大きな声で叫んでくるというセリフに
アメリカ人が爆笑していて、隣の人はThat’s fairって言ってました(笑)

で、Act 1の雰囲気が一転するのがLion Dance。
ペリーが戻ってきて、先ほどの蓋を開け、砂を掴み、パラパラと手からこぼしていきます。
実際は属国になるわけではありませんが、アメリカに支配されることになる未来が
ここで端的に表されていました。

Act 2のPlease Hello。
3方向から諸外国が中央の舞台にやってきて、
日本がWestに囲まれた感じが出ていました。
また各国が小さな旗を周りのお客に配って、振るように仕向けていて、
あなたたちが開国させたんですよ、と巻き込んでいるのがおもしろかったです。

Act 2でちょっと「?」だったのはその次のA Bowler Hat。
歌の最中、香山は床に座って、筆で手紙を書いていたのから、
デスクに代わり、ペンに代わり、ワインを飲み、
西洋化を受け入れていったのに対して、
万次郎はお茶を立てていたぐらいで、
なぜそのあと攘夷に傾いたのかが見えなかったんですよね。
Act 1で「アメリカが日本を開国させることはいいことだ」というセリフがあるのに、
こう180度変わったのはなんだったんだろう。
そこがよく見えませんでした。

そして最後のNext。
Youtubeで見た対談では、この最後のシーンで、
どんなStatementを伝えるのか、それぞれのプロダクションによって違っていい、
という話をJohn Weidmanがしていたのですが、
Ethanが今やっている日本のプロダクションを見たJohnに対して、
日本版はどんなStatementだったのかと聞いたのですが、
They couldn’t figure it outと。
え。

一方、今回のSignature版。
明治天皇になり富国強兵を目指し、日本がアメリカから受けたことを
アジアの国にやるんだ、と侵略していくことがセリフでわかります。
でも原爆でゼロに。

アンサンブルが一旦はけて現代の服装になって出てきて、
忙しく歩き回りながらNext! Next!と続き、
最初は経済大国になったこと、人口が多いことなどが挙げられるのですが、
CO2の排出量が多いこと、そしてAging Societyになり、
社長の平均年齢が63歳、しかもその半分は引退する気がない(後半はちょっと記憶が曖昧)
と、日本の問題点を指摘していきます。
まぁでもこれはある意味想定内。
Japan as No.1の時代は終わっているし、国力が落ちているのは事実。
環境問題も避けては通れません。

衝撃だったのはその次。
舞台の中央の蓋があった部分にドラム缶が設置され、
アンサンブルの一人が何かその中に捨てるのですが、
ドラム缶の中が赤く燃え、Reciterが最後、燃えかす(灰)を取り出し、
ペリーが砂をパラパラっとしたように、Reciterがパラパラっと灰を手からこぼします。
そしてその後ろには、明治の香山と万次郎が、冴えない顔で現代の日本人を見ている。
そこで暗転してストーリーが終わりました。

周りはこんな歴史があったなんて知らなかったねー、興味深かったねー、
と終演後に盛り上がっていましたが、私はもう最後がひっかかって。
とにかくNextの最後30秒ぐらいがすごく怖かったんですよ。怖いし気味が悪かった。
この意味は?これは何を言わんとしていたのか。
モヤモヤしたわけではなく、この意図をどう受け取ればいいのか、
悶々として帰り道につきました。

現代の日本人の格好の中に、首からカメラをぶら下げている人がいて、
おいー、今でも日本人といえばこれなのかよーと思ったりしたのですが、
そんなの忘れてしまうぐらいの衝撃でした。

もう一度「開国」する必要があるのか。
それとももう「手遅れ」なのか。
結局この謎はYoutubeの対談では明かされず、
(今回のNextについての言及なし)
どこかで何か手掛かりがあればいいなぁと思うのですが、
それにしてもすごい終わり方でした。

でもいいものを見た。いいプロダクションでした。

おまけ。
ロビーに展示されていた黒船、開国当時の日本の資料。
教科書で必ずみるものですね。
ただアメリカ人はペリーが開国したことをさっぱり知らない。

DCはちょうど桜の季節。劇場前の桜もキレイでした。


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